大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和39年(わ)229号 決定

少年 U(昭二〇・三・二二生)

主文

本件を千葉家庭裁判所に移送する。

理由

本件公訴事実の要旨は、

「被告人は二〇歳に満たない少年であるが、

第一、Aと共謀のうえ、昭和三八年○○月○○日午後一〇時頃、千葉市○○町○丁目○○○番地小○清○前埋立地内において、同人所有の普通乗用自動車(日野コンテツサ六三年型、登録番号千5せ○○○○)一台(時価約四五万〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

第二、昭和三九年一月○○日午後九時頃、右Aが他から窃取して来て運転していた普通乗用自動車(ニツサンセドリツク号)に同乗し同市△△町○○番地付近道路を進行中、○田○子(当二二年)の姿を認めて俄かに劣情を催し、強いて同女を姦淫しようと企て、右Aと共謀のうえ、同女の前方に停車してその接近を待ち被告人が同女を抱きかかえ背中に釘を突き付け右Aは車内から同女の手を掴んで引張る等して、救いを求めて逃れようとする同女を無理矢理車内に押し込んで自動車を疾走させ、同市△△△町○○○番地先の山林内に拉致し、右Aが同女の着衣を剥ぎ取つて全裸にし、同女を車内客席に仰向けにし、その上に乗りかかる等の暴行を加え、同女の反抗を抑圧したうえ、右A及び被告人の順に強いて同女を姦淫し、

第三、右Aと共謀のうえ、同年三月○日午後九時三〇分頃、同市○○町○番地先道路において、高○重○所有の普通乗用車(ニツサンブルーバード六一年型、登録番号千5す○○○○)一台(時価約一五万〇、〇〇〇円相当)を窃取し、

第四、同月○○日午前三時三〇分頃、右Aが運転する右窃取にかかる普通乗用自動車に同乗してドライブ中、タクシーと間違えて、○司○子(当二〇年)が乗車してきたことから、俄かに劣情を催し、強いて同女を姦淫しようと企て、右Aと共謀のうえ、同女を同市○○町○丁目○○○番地所在○○電力株式会社△△火力発電所南方の埋立地に連れ込み右Aが同女を車内客席に押倒して押えつけ、被告人に手伝わせてその着衣を剥ぎ取つて全裸にし、両足を押し開いて交々同女の上に乗りかかり、陰部を同女の陰部に押し付ける等の暴行を加えたうえ、更に同日午前四時過頃右自動車にて同女を同市○△町○○○○番地先山林内に連行し、逃げ惑う同女を捕えその顔面を数回強打して転倒させる等の暴行を加えその反抗を抑圧し、右A及び被告人の順に強いて同女を姦淫し、その際前記暴行により同女に全治一過間を要する処女膜裂傷、腹部、両股、大腿部各擦過傷の傷害を負わせ、

第五、右同日同時刻頃、右同所に停車中の右車内でひとり待機中右○司○子所有の一、〇〇〇円札二枚を窃取し、

たものである。」というのであつて、右各事実は、

判示冒頭及び全事実につき、

一、被告人の当公判廷における供述(以下証拠の標目省略)

により証明十分であり、前記各事実中、第一、第三は刑法六〇条、二三五条に、第二は同法六〇条、一七七条前段に、第四は同法六〇条、一八一条(一七七条前段)に、第五は同法二三五条に、各該当する所為である。

そこで被告人を刑事処分に付するのが相当であるかどうかにつき考察すると、本件記録によれば、被告人は、魚の行商を営む父○造、母阿○の二男として出生し父親は子供に対し無関心で兄も家庭裁判所の保護観察に付されたことのある家庭で勝手気ままに成長し、千葉市内△△△中学二年一学期頃、兄嫁の財布が紛失したことから疑がかけられ学校の先生にも調べられ、それが契機となつて学校がいやになり中学二年で中退するに至り、以後同市内等で大工見習、金魚屋手伝、映写技士見習、水道管施設工等転々職を替え、その間昭和三五年九月○○日オートバイを窃取し、昭和三六年一月○日恐喝事件を起こし、同年九月一五日千葉家庭裁判所でこれらの事件につき保護観察処分に付されたこともあり、本件犯行自体も、極めて悪質であり再犯のおそれもないとはいわれない。

しかし乍ら、他方

一、被告人が家庭裁判所の審判を受けたのは前記千葉家庭裁判所における一回だけで、しかもこれに基づく保護観察処分は成績良好を理由に昭和三八年五月に解除されたこと。

二、被告人の本件犯行の契機は同年一二月頃、本件犯行の首謀者と認められる年長者Aと知り合つたことにあり、以後同人に呼び出されては脅かされあるいは誘惑されて断わり切れずになしたものであつて、しかも被告人の本件犯行における態様は自動車窃盗においては追随的であり、強姦や強姦致傷においては付和雷同的であると認められる。こと

三、本件窃盗の被害品はそれぞれ還付されている上に、被告人は深く前非を悔い更生を誓つており、母親にもその熱意が窺われ本件強姦、強姦致傷の各被害者に対し不充分ながら慰謝の方法が講ぜられ示談も成立している等犯罪後の情状が著しく変つたこと。

四、被告人の本件犯行はいずれも近時の社会の軽薄な風潮に影響されたものであるとはいえ要するに、被告人の情操教育の不足ないし自主性の欠如に基因すると考えられるところ、被告人の家庭環境に対してはこれ等の充足矯正を期待することは困難であることならびに被告人には未だ少年院における保護育成の機会が与えられていないことその他右諸般の事情に鑑みると、この際刑事処分に付するよりも家庭裁判所における適当なる保護処分に付するのが相当であると認め、少年法第五五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石井謹吾 裁判官 小室孝夫 裁判官 杉山修)

参考

受移送家裁決定(千葉家裁 昭三九(少)一五四五号 昭三九・七・二九決定 報告四号)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

罪となるべき事実、および適用法令〈省略〉

処分事由

少年の本件犯行は極めて悪質であり、その生活態度も不良であるが、本件犯行は共犯者Aに引きずられた結果とも認められるし、少年は本件犯行後反省の色も認められ、且つ施設に収容して矯正教育を受けた前歴もないこと等を綜合考慮の上、少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 尾崎力男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例